峠の地蔵

　湯崎一丁目のタタラ町の峠のお堂に祭られている二体の地蔵を土地の人々は「峠の地蔵さん」と呼んでいる。鉱(まぶ)谷川を渡り登ってくる道と、鉱湯(まぶゆ)から登ってくる道とがこの峠で合流し、金徳寺に通じる街道筋にある。

　右に位置する地蔵は自然石の上部を壷形に彫り込み浮彫りされた像高１３cmの座した姿で両手に宝珠を持ち、その下部には筑前志摩郡（福岡県糸島郡志摩町）、六十六部日本廻国、俗名、岸浦およねと三行にわたって彫られている。

　左に位置する地蔵は合掌した立像で、光背正面右側には、奉納大乗妙典六十六部、左側には宝暦十二(1762)午六月八日、雲州飯石郡吉田村(島根県飯石郡吉田町)くらと彫られている。

　六十六部とは別名廻国行者ともいわれ、六十六部の法華経を書写し全国六十六か所の霊場を巡ってこれを奉納する行脚僧、又は回国行者を指し、鎌倉末期に始まり江戸時代に至って盛んとなった。毎年八月二十三日には観音講の人々により念仏が唱えられ、現在のお堂は昭和五十二(1977)年十二月二十五日に再建されたものである。