約八万三千坪の話

 約八万3千坪の開発が始まる遠因は、

以下、参考文献 白浜温泉史頁50

 明治32年中瀬戸の芝田与七(そのころ新太郎という)が白良浜の鳥岩のところにガスの出ているを知り、官地使用の許可を受け田辺の医師榎本貞雄と共同出資で温泉試掘を行うが 、 当時は今日のように鋼維による鑿岩や鉄管挿入などの技術を知らず田辺の井戸掘業片山繁次郎とその手下3人が旧式の井戸を掘る方法にて掘鑿を試みたが。何分海中のこととて潮の干満、波の動揺あり作業進まず満潮時水深6尺のところにて12尺を掘りて止めたるも、その12尺のとこるにて約62.3度(摂氏)の温泉が一昼夜500石程度湧出することを推定しえたという。

 小竹岩楠は田辺の尾崎庄平(初代、大阪商店田辺取扱店支配人)から以上の話を聞き、紀勢鉄道の南下に備え、白濱開発を考慮したものの如く、大正7年9月21日田辺の旅館錦城館で、小竹、尾崎、芝田3人会合して、小竹は芝田に鳥岩温泉掘鑿の権利譲渡を求め、温泉郷の計画を語ったという。


以下、参考文献 白浜湯崎温泉叢書科学文献篇

紀州白良浜温泉場設備大系 林学博士・ドクトル 本多静六氏 大正10年4月5日現場講演筆記

白良浜土地建物株式会社土地経営地計画図

白良浜土地建物株式会社土地経営地計画図説明書

大正十年十二月

林学博士ドクトル 本田静六 林学士 永見健一 製図者 前田祥吾

緒論

地割、其根本方針並に其概要

1、吾々は諸種の事情を総合して全域を(壱)住宅区(貳)公園及遊覧地区(参)大温泉浴場、旅館、料理店区の三者に区分し之と同時に出来得る限り現実の地勢にに即して主要路線を設定し其交差点に大小の広場約 11ヶ所を設定した即ち左の通りとなる。

(一)住宅地      49.975坪0  60.0%

(ニ)公園及遊覧地  15.265坪0  18.0%

   学校、図書館、劇場、園芸区、寺院、展望台等を含む

(三)温泉大浴場、旅館、料理店、敷地 6.684坪0 8.0%

(四)道路及広場   10.951坪5   13.0%

    計        82.875坪5

1、上の内公園及遊覧地地区は主として北南山稜を巡ぐる大廻遊線に沿ふて設計せらるべき別項記載の各項に対する敷地及南部「寺谷口」「伊賀首」に設定する一団の遊園的地区を抱含する。

 

  本   論

   第壱 住宅地及道路広場に就て

1、住宅地経営及其処分は会社成立の主目的である吾々は之が為に全域の60パーセントを之に充当する事を期した。 而して大温泉浴場及旅館、料理店敷地の8パーセント加算するときは実に68パーセントとなる、猶必要に応じては「伊賀首」の寺院敷其他若干の土地をも亦之に換算しても宜しい。即最大70パーセント迄を抱含することが出来る訳である、此以上の要求は実用、衛生、保険、科学の立場とその美の立場の両面より見て妥当ならざる次第であると考へらるべきである。

欧米先進国の各種都市に於ける道路公園広場を抱含する地積の全部に対する割合平均20パーセントを示して居る。

1、 扨て各住宅敷地内図示の主要路線以外経営の進行に従て猶若干の通路小径を設定する要求が起るであろうが、之は其必要が起った場合其れを要求する其廊(主要道路に依て限られたる1区廊の住宅敷地を云ふ)に住む人の知恵と趣味とに根拠の大部分を置いて設定せらるべきものである、 斯くしてのみ全体が深い実用と美とに適合せる有機的なる活きた一つの町となる。

各地廊内の小径は其れが当該区廊内の住人の為めに便利にのみ企画せらるゝ限り本来「公道」と言ふよりも本質的には寧ろ「私道」であって純然たる住宅敷地の一部と見做すべきものである。

1、図面上主要道路の両側の緑色部は建築線(建物敷地内にあって実際の道路面に対して建築物を築造すべき線即通俗には相並んで一群の建物の軒の縁を連結せる線としてよい)と道路との間隔との最小限度の凡ての規定を示すものである斯くして道路両側に於ける各住宅敷地が例えば一様に低い生垣の様なもので道路面と境せらるゝ場合に於ては衛生上(道路面の採光及通風其他の関係)並に実用上及美観上少ない利益について町の全体が悦ぶ事が出来るであろう(右の意味に於ける緑色部は住宅地道内に編入して全体の百分比例を取った此緑色部の巾は実際に於て事情が許す限り広い程よい事は申すまでもない)。

1、道路工作、路面築造は普通の法に従って為れは良い自動車を通すべき三間幅以上は側面の溝を暗梁として住宅地を貫く二間幅の道路及其以下のものは明梁にて宜しい。

1、正面姿図(エレベーション)高き洋館や其建築美が目的の重大なるものゝ一たるべき公共建築はすくなくとも其正面に其高さの半分を幅に有する前庭を設定すべきである。(例えば吾々が大温泉浴場の前に設計した處の噴泉を囲む一群の植栽芝生道の如きものである)

 理想を言えば此幅は建築主要部の高さ同長たる事が要求されて居る

此故に若し斯様の建物が道路に面して建築せるべき場合に於ては其建坪敷地を道路より後方に退かしむる事が必要である即此場合の建築線は最小限度に於て建築主要部の高さの半分を示す長さから道路の幅を減じた残り丈道路面より退く訳である。

1、道路詳細 延長累計 4,737,5間  此面積 10,165坪0

此内訳

等級

道幅

延長

摘要

1特等

4.5以上

573.5

中央縦貫自動車道

  内訳

   一級

7.0

70.0

   ニ級

4.5

503.5

1壱等

30

680.0

海岸道路公園に至る道路自動車通す

公園に至る道路は欧米のROULEVARDS(公園広路)に準すべき部分なり

1貳等

2.0

1614.0

住宅地帯自動車を通じ得

1参等

1.5

500.0

公園地帯

1四等

1.0

1370.0

山地遊覧廻遊路線其他

 1広場

   個数大なるもの計 十三ヶ所 此面積 782坪5

 (1)広場 中心大広場又は交通広場に相当す

 (2)広場 装飾広場又は教育広場に相当す

 

  第貳 公園及遊覧地其他の内容詳細 

1、井ノ向遊覧地全域

3,860坪0

地名 井ノ向

 内訳

 野外劇場

970.0

井ノ向

 学校

800.0

井ノ向

 図書館兼公会堂

525.0

井ノ向

 美術館

480.0

井ノ向

 園芸区(教育動物園花壇を含む)

1,085.0

井ノ向

1、劇場

1300.0

井ノ芝

1、教会

595.0

小谷峠

1、寺院

795.0

伊賀首

1、保養院

1.160.0

瓦屋向

1、祠堂

560.0

喩賀平

1、山上大花壇

1.340.0

井ノ向

1、果樹園

1430.0

井ノ向

1、園芸試験場、実用動物園第二展望台

1.340.0

寺谷口

1、第一展望台

45.0

伊賀首

1、大池

670.0

喩加平

1、其他山林

1840.0

矢倉及小谷口

累計地積

14.935.坪0

其簡単な説明

1、野外劇場=最近流行し以後益々流行する模様と其望とがある故当地の一名物として是非設立せられんことを希望する図面では合理的で最大規模の場合として観客席三面を取った燃し日本は外国と異なり雨天が多く夏季雑草が繁茂し夏蟲がうるさく発生して観覧者に不快を興える事情が多い故、欧米の野外劇場が齎らす雰囲気の興味を直ちに直訳的に此地に移植する事は危険である事が最近唱導されている、それ故初めは稍小規模のものを簡単に作って夏季避暑客や遊覧団体の家族的及社交的の娯楽交際の舞台としたいものである。例えば或る一家族の公開音楽会、文士や画家連の即興素人野外劇場、名士の林間講演会会場、夏期臨時野外活動写真撮影場等言うものを雨さえ降らなければ、此青天井の下で行う事の趣味と実益は想像以上に深いものがある扨其位置は都合で美術館の位置と交替してもよい美術館の位置も現在の野外劇場敷地え持って行った方が高く聳える点で一層其権威が美しくひきたつであろう舞台と観覧席との位置は図面に示す處と正反対に訂正する。

1、学校=将来住宅地として合理的な発展を永久に企図するならば学校敷地を予めとって置く事が親切で妥当な事である運動場は附近の園芸場や山林全部を当てるから狭くて宜い訳である。

燃し児童や青年の為には狭義の運動場、円形の競技場や、野球競技場迄は無くとも簡単な機械体操の設備や若干の地積を持った車や通行人の通らない平坦な広場が欲しいものである。

1、美術館、図書館、公会堂=此等の公共建築物が最一般的に日常無くて協はぬ必需品である日は近い国民の中堅たるべき知識階層として 中流家庭や一般風教と芸術の擁護者たるべき貴願富豪のそれがーー少なくとも左様な日の実現を望むならばーー此等の公共建築物も此處にも無くては物足るまい。

1、教育動物園、花壇、果樹園を含む園芸場=男女のあらゆる趣味性癖を通して此地を訪れたものゝ忘れられぬ能き深き印象たらしむるに足る深く賢い知恵と技術が此處に投ぜられねばならぬ天賦の豊熟なる土壌と温暖な気候と而してよき技術者と理解ある出資とが其事を可能にするであるう。

以上各項の敷地を「井ノ向」の山懐に一括して取って置くそうして現実の事情に応じて最適当に其実現を期する様にする。

1、寺院=寺院が万一建立せられない場合は第一展望台を寺院方丈の處に移転し他は相当の山林を山頂部に残して他全部を住宅地区に編入してよい。

1、祠堂=「喩加平」にあるそれは強めて其存在の歴史を尊重したい。

1、保養院=「病める人々」と「健康なる人々」とが一般に相隣って生存し難き関係にある事は現実の真相である此意味に於て吾々は保養院の敷地の一円を可なり広大に図面の通りとって置いた。

1、大花壇=美しき草花や球根の類で四季の飽かぬ眺めを現実する為めに大きな労費を此處に要求しょうと云うのではない若干の潅木類と極めて少量の根強い野の花の類を巧みに配して其管理に手数のかゝらぬ自然式潅木花壇を設計したいと言うのである又事情によってはニ三の暖帯植物群落の自然な植栽を背景として大きな広い美しい芝生も敢えて不可ではない其樹間から見ゆる彼方の大洋の波や其波の上に浮く緑の島々の眺めが即に他に得難い高い特徴を此地にーーそして此町全体に興えるであろう。

1、実用動物園に飼育すべき動物及売品

 ウシ、ウマ、ブタ、シカ、ガチャウ、アヒル、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ

 盬漬の土産、卵、乳、角細工等

 園芸試験場に植栽試験すべき樹種又は定植観賞樹種

 暖、熱帯共通の喬木潅木 ビロウ、シユロ、シユロチク、アカウ、センダン、アブラギリ、ムクロジ

                  チシヤノキ、チャ、竹の類、クチナシ等

 暖、熱帯共通の観賞花木 ヶャチクタウ、サルスベリ、フヤウ、レンギャウ、ワウバ、イソケイ等

 暖、熱帯共通の果樹 ザボン、ブシュカン、レモン其他柑橘類

1、第一展望台=大正10年3月第一回実地踏査の際本多静六講演の内に在り。

 

  第参旅館及料理店敷地区割に就て

1、旅館及料理店区は西部海岸通に平行して之として之より以東の山麓との間に介在する狭長の地域一円を之に充て原案を妥当と認め専ら之に準所し多少細部の補訂を施して図面通りに設計した、而して現場「白良峠」の西端を限り稍平坦な高台(図面休憩所及ベンチのある部分)から直ぐに直下に下る一間道路は積極的に之を廃棄して此部に丈高 き松林と常緑潅木の中木下木(ウバメガシ、サツキ、ツツジ、トベラ、モッコク、モチの類) を保育養生して直下の料理店に憩う者との両方にとって望ましい施設である事を吾々は主張する。

更に出来得るならば此山麓と料理店区との間に細長の散歩間道を通じる様な施設が望ましいのである。

 

  第四海水浴場の計画に就いて

1、海水浴の模範的地勢を挙げると

  1、海が遠浅である事、少なくとも岸から20〜30間身を没しない事

  2、海浜は細かい美しい砂浜である事

  3、海岸線に添って松林のある事、第二項の砂浜の幅は或程度迄短かい程良い

  四、海水は清く暖く藻類、貝殻、岩石等の無い事 クラゲ、鱶等の居ない事

  五、渦巻や陰流のない事

  六、淡水を容易に得られる事

  七、交通の便利な事

扨吾々の現場は上一から五迄は殆ど理想的に備えて居り、六は清く暖かな温泉がある故猶更理想的であるし、七も追々他の必要上から云っても開かるゝであらう。

(既に和歌山から自動車道設定施設の促成案さえ通過せんとする現状である)

夫故将来松の小苗を極力養成して現在の松林を漸次益々増加し而して一方適当な脱衣場を計画設置するならば海水浴場としての名声県の内外に嘖々たるものがあるであらう事を疑はない。

1、吾々は上の望ある現状に対して最理想的なる其れえの人工的施設の一例を下の通り提出して当局の参考に供せんとする。

  一、海中の設備として

    1、釣堀及貝拾場区

    1、男女海水浴区

    1、遊泳及舟遊区

  の三に海中を区分し見張望楼、救助監視船其他諸般の設備をなす

  ニ、陸上の設備としては最新式脱衣場、水浴場(清水又は温泉何れにてもよけれども清水一ヶ所は

    必ず入用)其設計一例は直ちに後便に託して届けよう。

 

  第五権現山天然植物園

本地域は森林植物帯上暖帯南部に位し権現山の現場は元来此地一円にあるべき自然の状況を最能く説明するものである、其れ故吾々は村民諸君の理解に依って本地域を教育上最有効にして最趣味深き自然式天然植物園の模範的形式を計画し其実現を望むものである。

其要領は大正10年3月第一回実地踏査の際、本多静六実地講演指導し更に其実施設計の概要は大正10年7月永見健一第二回実地踏査の際現場にて説明し現在天然生林木約三十余種に命名して置いた。

注、林学博士・ドクトル 本多静六氏、町誌本編下巻一には本多精一博士とあります。

注、大正8年5月11日、資本金50万円の白良浜土地建物株式会社が設立された。


以下、参考文献、南紀白良濱、著者毛利清雅 大正14年5月発行

白濱温泉自動車株式会社という、資本金は僅かに八十余万円に過ぎざるも、既に和歌山田辺間に数十台もの自動車を配置して、交通に具え、田辺湾上には数隻の快艇を浮べて、南岸「綱不知」に連絡し、「綱不知」と「白濱温泉」とには、又、幅員豊かなる自動車道を設け、この附近八萬二千八百七十五坪の面積を会社の所有地と為しあり、げに白良濱の風景保存と白良浜温泉発展の二大使命はは今や全く会社の双肩にかかれり。(注、現代文に修正した。)